| 永田町発 NPO最前線…D
民法改正か、特別法か(その3) 「公益の網」と「許可の網」
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「公益」解釈で暗礁に
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連立与党のNPO(非営利組織)関連法案作成をめぐって、3党間(自民、社民、さきがけ)の合意形成が暗礁に乗り上げています。4月3日に自民党が提出した修正合意案に他の2党が難色を示しているのです。
連立与党は、現在会期中の通常国会で、「市民生活促進法」(仮称)の成立を目指しています。その中でとくに、法案で「市民活動」をどう定義づけるかが焦点となっていました。今回の修正合意案で自民党は、「市民活動」を「公益に関スル活動であって、公益の増進に寄与することを目的とするものをいい、それに通常要する費用を上回る対価を受けて行うものを含まないものとする」1)と定義してきたのです。
これに対して、社民党や新党さきがけは、「『公益性』の判断を役所にゆだねると、市民団体を行政のコントロール下に置く」2)と反発しています。論点はさまざまあるものの、ここにきて「公益」をどう捉えるかが最大のポイントになってきたようです。
新進党案作成着手当初にも、「公益」をめぐって長時間に渡る大論議がありました。当初の骨子では、基金の準備、役員や理事会の規定、情報の開示などの要件を満たせば、登記によって非営利法人格を取得できるとしていました。公益性の有無は法人格取得に関係がないようにしていたのです。
公益性を要件とした場合、非営利・非公益組織に包括的な法人格の取得の途を開けません。また、「公益」という、解釈に揺れがある言葉を要件とすることで、行政が「公益」を盾に、法人設立から日常活動に至るまで、不当な干渉をしてくるのではないかという懸念もありました。現行の公益法人制度の運用実態を見れば、どうしても「公益」という言葉を疑いたくなるものです。いずれにしても、当初は、現在の社民やさきがけと近い考えをもっていたといえます。
ところが、すでに衆議院に提出をされている新進党の「市民公益法人法案」(略称)は、その名も示す通り、まさに公益法人法の一種となっています。そして、連立与党案立案過程でも、今回の自民党の修正合意案に見られるように、「公益」が強調されて来ています 。
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「公益の網」 |
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法人格取得の要件に「公益」がどうして必要となるのでしょうか。また、本当に、「公益」を要件とすることが、行政に不当干渉の余地を与える核心的な要因なのでしょうか。
まず、法人格取得の要件に「公益」を必要とする消極的な理由から説明をします。これまでも指摘したように、民法において法人設立の大きな区分は、営利・公益です。営利・非公益ではありません。日本には包括的な非営利法人制度はないのです。そして、公益法人制度が、非営利法人制度の中核に座っています。すなわち、日本における非営利法人には、原則として「公益の網」がかかっているのです。
新進党の当初の法案骨子の内容は、民法を改正せずに、包括的な非営利法人法を日本に確立させようというものでした。「公益の網」の中での工夫、これしか許されていないのにもかかわらず、その「公益の網」をさらに大きな「非営利の網」で包み込んでしまおうと試みたのです。しかし、民法の規定するルールは、「公益の網」が最大の網であり、それより大きな網は存在をしてはならないとしています。結局は民法を改正する以外に、より大きな「非営利の網」をかけることは無理だということになるのです。
ここで、「将来の民法改正は視野に置くとしても、現時点では民法改正に踏み込まない」という、先月号で示した法案作成の大前提とのジレンマに陥りました。民法改正か、それとも「公益の網」の中での工夫を考えるか。
政策の立案にはフィジビリティー(実現性)の高さも考慮に入れる必要があります。野党案には、もともとフィジビリティーはないのだから無理でも理想を押し通せという意見もありました。しかし、野党だからといって無責任な法案は作れません。今後、国会の立法機能の強化という課題に取り組むには、今からでも与野党問わず責任ある立法の態度を国民に示し、立法府の信頼回復の努力が必要です。
そこで、先月号で指摘をした民法改正に伴う問題を再度考慮した上で、「公益の網」の中での工夫を考えることを選択しました。ただし、現在の「公益の網」は、潜在的なニーズからしても大変狭苦しいものとなっています。しかも、行政には使い勝手が良くても、国民一般にとっては大変使いづらいものです。したがって、当初の立法の趣旨を活かしつつ、「公益の網」におさまる努力をしながらも、その「公益の網」自体を拡大し、国民一般に使い勝手が良いものになるような工夫を考えることにしたのです。
この点、連立与党も民法改正を行わないことで合意をしています。となれば、「公益の網」の中の工夫を求められているはずです。自民党の今回の修正合意案はそうした事情を色濃く反映したものといえます。これを後退とする向きもありますが、成案に近づく努力の現われとして、一定の評価はすべきでしょう。
他方、公益性を要件とすることを積極的に評価することもできます。そもそも、NPO法の必要性が提唱されるようになった背景には、民間非営利公益活動を支援する制度の貧困があったわけです。非営利・非公益団体への包括的な法人格付与法がないことも大きな問題ではあります。しかし、より優先順位が高い政策課題は、民間非営利公益活動の支援の在り方であるはずです。であれば、公益性を要件とすることはむしろ当然のことといえます。
また、たとえ将来民法を改正しても、公益法人というものは、共益法人や宗教法人等とともに非営利法人のひとつの範疇として残るものです。その時に、やはり「公益」という言葉を使うかはわかりませんが、英語で「Public Benefit」というカテゴリーは残るはずです。ここで再度、今回のNPO法を考える時の「公益」は、この「Public Benefit」であるということを強調しておきます 。
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「許可の網」 |
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次に、「公益」を要件とすることが、行政に不当干渉の予知を与える核心的な要因なのかを考えてみます。先に、日本において、非営利法人制度の中核には公益法人制度があることを述べ、「公益の網」の存在を説明しました。公益法人制度を規定しているのは民法34条ですが、そこにはもうひとつの重大な網が仕掛けられているのです。それが「(主務官庁)の許可の網」(以下「許可の網」)です。
私はこの「許可の網」こそが、現行の公益制度を社会全体のものから行政のものへと歪め、非営利法人の活動へ不当に干渉する余地を行政に与えている核心だと考えています。「公益」という言葉はその定義の曖昧さ、移ろいゆえに最も利用された、「許可の網」の隠れ蓑のひとつに過ぎないのではないでしょうか。
「許可の網」において、主務官庁は全権を握っています。その中では公益性をどう解釈するかも主務官庁の自由です。よしんば民法が、「公益の網」ではなく「非営利の網」をかけていたとしていても、一方で「許可の網」がかけられていたら、その非営利法人制度も、現行の公益法人制度のように限定的、抑制的なものになり得たのです。ここで行政をとことん疑えば、たとえば、非営利という言葉には解釈の余地がないので、公益法人法やら共益法人法といったさまざまな民法の特別法を作って、行政に都合の良いような要件を課していたことが想像されるのです。こう考えれば、行政の不当な干渉の余地を残す核心と言えるものは、「公益」要件ではなく、「許可の網」であるということが見えてくるのではないでしょうか。そしてその「許可の網」の中で自らの都合の良いようにしか泳いでいないように見える行政に対する不信感がそうした危惧の念を増幅させているのです。
当初の骨子で登記制を考えていたのに、最終的に認可制に落ち着いた背景にもこの「許可の網」があります。それは、「公益」要件があるから認可でなければならないということではありませんでした。「許可の網」の中での法人設立の承認という観点からの発想なのです。要するに、原則禁止の「許可の網」の中に、準則主義の登記制はなじみようがないということです 。
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注
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1)
「市民活動促進法(仮称)」骨子より
2) 4月22日付朝日新聞朝刊より
(いちむら・こういちろう/新進党政策審議会) |
『経済セミナー』
1996年7月号
p.52-53 連載D
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